現在公開中のクリストファー・ノーラン監督の注目作
TENET (テネット)
難解な設定だけに、一度見ただけではなかなか理解できない今作。
今回は、自分なりに考察してみつつ、この映画を解説してみます。
時間の流れを図式化
今作が分かりにくいと言われる由縁に、時間軸が複雑な点があります。
今作の時間軸を説明するにあたり、時間軸を図式化してみました。
まずはこちらで、この映画の時系列を整理してみましょう。
今回は、説明の都合上、正常に流れる時間軸を「直行」時間、逆行する時間軸を「逆行」時間と呼び、説明させて頂きます。
勘違いしがちかもしれませんが、一応
主人公「名も無き男」視点の時間軸は物語を通して一定
にはなっています。
ノーラン監督でよくありがちな手法で、
時間軸をずらした、シーンの切り替え
がありますが、今作は一応時間軸は一定なのです。
詳しい時間軸の解説はこちらの記事でも紹介しているので、気になる方はこちらもチェック!
時間逆行を利用した「挟み撃ち作戦」とは
スタルスク12で本格的に活用された「時間の挟み撃ち作戦」
では、この「時間の挟み撃ち作戦」とは一体どういう作戦なのか。
結論、この作戦を行う大きな目的は
自分たちに有利な(未来の)情報を手に入れることで、戦況を有利に進める
ことです。
そして、その「未来の情報」を手に入れるために、
「逆行」軍を編成し、決着がついた場面を見る
ことを「逆行」軍は行っています。
また、敵(今作ではセイターの目線)から見れば、この「情報漏洩」は避けたい。
そのため、セイター側も
情報を得ようとする相手の「逆行」軍を全滅させる
ことを目的として、「逆行」軍を編成します。
「逆行」軍を、相手の「逆行」軍にぶつけて、相手を殲滅させ、情報を"過去"に持ち帰らせないように対抗しているのです。
それでは、「時間の挟み撃ち作戦」の詳細を、「スタルスク12」での作戦を例に説明してみます。
「スタルスク12」作戦の目的
まず、スタルスク12の作戦の目的は
爆破を阻止することなく、プルトニウムの「アルゴリズム」を奪還すること
にありました。
セイターたちは、スタルスク12で「アルゴリズム」を集め、地中に封印することを使命としていました。
そのために蓋をするように、地下の天井部分を爆破しています。
「アルゴリズム」を地中に封印することで、永遠に、誰にも奪わせず、起動させることができるからです。
それを防ぐために、「名も無き男」たちプリヤ軍(後の「TENET」)は、
爆破前に、「アルゴリズム」を奪還する
必要がありました。
ここで、爆破を防いでしまうと、セイターたちは、「アルゴリズム」が奪われた、もしくは奪われる危険があると考え、それを防ごうとする。
そういった、いわゆる「いたちごっこ」が発生し、収集が付かなくなります。
なので、セイターたちには、「アルゴリズム」を"封印した"と思わせないといけない。
なので、爆破は防いではいけないのです。
何故、スタルスク12を攻めたのか
そもそも、「スタルスク12」という場所が、「アルゴリズム」が封印 "されたとされる"場所だと分かったのか?
これにも、「挟み撃ち作戦」による情報戦が関わっています。
つまり
「名も無き男」たち未来からの「逆行」者が情報を知っていた
からです。
「名も無き男」は、MI6のエージェントから、セイターの情報を聞いた際に、
「先日、スタルスク12で謎の爆発があった」
と聞いています。
これは、アイヴスたちプリヤ軍も認知していました。
この情報から、
この爆破こそが、「アルゴリズム」を封印するための爆破
だったと考え、作戦に移しています。
「逆行」軍が得た情報
ここからは、主に「直行」軍の視点になります。
「直行」軍の侵攻前、作戦会議が開かれます。
作戦は「スタルスク12」が爆破する"とされる"、10分前に上陸するところから始まります。
この作戦の目的地 =「アルゴリズム」の封印場所
になるのですが、これは10分後に爆破が起こる場所ということになります。
この情報は、「10分後に上陸して"いた"」任務完了後の「逆行」軍から得られております。
(「逆行」軍は、上陸直前に、スタルスク12の爆破を見ているため)
このように、「直行」軍の作戦会議は、(おそらく、敵の戦力や、装備、配置などに関する)「逆行」軍からの情報を元に進められます。
(逆に「逆行」軍は任務終了後の「直行」軍から情報を得ているかもしれません)
この上陸前に上陸した場所の情報を知れることが、「時間の挟み撃ち作戦」の大きな利点なのです。
ニールによる「挟み撃ち作戦」
「逆行」軍のニールは、この「時間の挟み撃ち作戦」による情報戦を、
「名も無き男」たちを助けるため
に作戦内で応用してます。
「逆行」世界で
爆発
↓
「名も無き男」とアイヴスが進入
↓
セイター軍のボルコフが罠として爆弾を仕掛ける
という場面を目撃したニール。
(この時点で「直行」世界目線では、ニールは爆弾設置"前"の時点にきています)
一連の流れから
「名も無き男」とアイヴスが、敵の罠にはまり、地下に閉じ込められた
↓
2人が爆発を回避するために、助けが必要
と判断します。
そのため、敵の「回転ドア」を用いて「直行」世界に戻り、危険を知らせようとします。
この時点で、「直行」世界の、爆弾を仕掛ける前の時点にいるニール
「名も無き男」とアイヴスに、車のクラクションで注意を引きます。
(こちらは、「名も無き男」視点でもちゃんと描かれています)
しかし、2人には気付かれず、2人が閉じ込められることを防ぐことに失敗
最終的には、なんとか機転を利かせて、クライマックスの爆発から2人を救い出します。
(ちなみにこの脱出は、「逆行」軍が侵攻する際にも描かれていますね)
つまり、ニールも「時間の挟み撃ち」作戦を独自に行ったことで、「名も無き男」たちを助けることができたのです。
このように、「時間の挟み撃ち作戦」とは、
時間「逆行」を用いて、「逆行」軍が有利な情報を集め、作戦決行前に情報を提供することで、作戦を有利に進めること
になります。
「祖父殺しのパラドックス」に挑む、それぞれの使命
時間逆行が登場する今作ですが、過去を変えることは可能なのでしょうか?
物語を通して、この疑問に対しては
不可能
という回答を得られます。
物語を通して、どんなに「逆行」を行っても、「逆行」前の未来を変えることはできません。
何故なら、その未来(現在)は、「逆行」によって干渉されたことを加味した世界になっているからです。
つまり、「スタルスク12」の戦い以降、世界が存在している時点で、どんなにセイターが逆行しても、「アルゴリズム」を起動することはできないのです。
では、何故、それでもセイターは「アルゴリズム」を起動しようとするのか
そして「名も無き男」たちは、それを防ごうとするのか
「祖父殺しのパラドックス」とは
「祖父殺しのパラドックス」というワードは、ニールとの会話の中で出てきます。
よく日本では「親殺しのパラドックス」として知られているタイムトラベルにまつわるパラドックスです。
親殺しのパラドックス
例えば、ある男が、タイムトラベルを行い、自分の生まれる前の時代に行ったとします。
そこで、自分を産む前の父親を、母親と出会う前に殺したと仮定します。
この時、
自分を産むはずの父親を殺したために、ある男は生まれなくなります。
しかし、ある男が生まれないために、
父親を殺すはずのある男は存在しなかったことになり、父親は殺されない
ことになります。
これでは、堂々巡りになり、結局「父親は殺されるのか」、「ある男は生まれるのか」という点で矛盾が生じます。
したがって、タイムトラベルを行うことは不可能という仮説を証明するためによく用いられるパラドックスです。
「祖父殺しのパラドックス」への反論
この「祖父殺しのパラドックス」、一見正しそうですが、実は反論する仮説があります。
例えば、パラレルワールドの存在です。
もし、「親殺しのパラドックス」の考えを用いて、親を殺したとします。
その時点で、
自分が生まれなかったはずの世界
が生まれるのです。
このように、ある男が親を殺した時点から、「自分が生まれてきた世界」と「自分が生まれなかった世界」の2つの世界が並行(パラレル)して存在します。
例えば、「バック・トゥ・ザ・フューチャー パート2」で、悪役ビフが大金持ちになる世界と、主人公マーティの父親のいわば子分となる世界が生まれた時のイメージです。
「アベンジャーズ」でも似たような考えで「マルチ・ユニバース」という考えがありますね。
したがって、パラレルワールドの存在によって、この「祖父殺しのパラドックス」は否定することもできるのです。
彼らが「アルゴリズム」を奪い合った理由
従って、この「祖父殺しのパラドックス」を否定するパラレルワールドの存在が否定できなかったため、彼らは「アルゴリズム」を奪い合ったのです。
「名も無き男」がニールに
「この世界が存在するということは、セイターは失敗したのではないのか?」
と問うシーンがあります。
まさに
何故、「名も無き男」たちが「アルゴリズム」を奪わないといけないのか?
という問いですよね。
それに対してニールは
「分からない。だからパラドックスなのさ」
と答えます。
つまり、現在が「アルゴリズム」を起動しない"現在"だとしても、「アルゴリズム」を起動し、世界が滅亡した世界が存在しないとは言えない、分からない、のです。
だから、「アルゴリズム」を奪わなければならない。
また、「アルゴリズム」が起動しないからといって、「名も無き男」たちが行動を起こさなければ、矛盾が生じてしまいます。
そんな「矛盾が生じさせない原理」に従って、彼らは使命を持って行動しているとも言えるかもしれません。
少しややこしくなりましたが、彼らが「行動を起こす」という"事実"が未来にはあったがために、未来が存在している。
だから彼らは、使命感を持って、"必ず"「行動を起こす」
(それはセイターも同じで、「名も無き男」たちが奪いに来ようとするから、「アルゴリズム」を起動させようとする、と言えるかもしれません)
彼らは、そんな世界の原理に縛られた存在なのかもしれません。
隠された小ネタ
最後に、映画の中で隠された小ネタを紹介していきます。
気になった方は、本編をもう一度見てみてもいいですね!
ワーナー・ブラザーズのロゴ
まずはワーナーのロゴ。
映画冒頭のワーナーのロゴですが、背景が赤い色のロゴになっています。
しかし映画のクレジット後の最後のワーナーのロゴ、こちらは青い背景になっています。
これは、「スタルスク21」での最終決戦でも説明された通り、「時間の直行」を赤色、「時間の逆行」を青色で示していることに由来してます。
例えば、普通に映画を見ると赤いロゴから、もし仮に映画を逆回し(「逆行」)にみたら、最初に青いロゴを見ることになります。
そのように、時間の流れを色で喩えていることが、ロゴの色にも現れているのですね。
カーチェイスのサイドミラー
中盤に「プルトニウム241」を奪い合うために引き起こされたカーチェイス。
「プルトニウム241」を奪う前に、サイドミラーが少し映ります。
おかしなことに、まだ何か攻撃されたり、事故が起こった訳ではないのですが、サイドミラーが割れています。
こちら、その後の展開で、「逆行」車によって、(「逆行」車側の視点で)ぶつけられます。
映画のシーンでは、「逆行」世界によって破壊されたので、「直行」世界から見ると、まるで割れていたサイドミラーが「直っていく」ように見えています。
その時間「逆行」の様子を描くための布石として、何も起こる前に、割れたサイドミラーが登場しています。
こんな風に、タイムトラベルものにありがちな伏線や、ラストへの布石が随所に見られるので、ぜひ何度か見返して見ると面白いですね。
次の「ニールのキーホルダー」にまつわる小ネタも、そんなラストへの伏線になります。
ニールのキーホルダー
終盤の、「アルゴリズム」奪還後、ニールとの別れのシーンで、ニールの特徴的なキーホルダーが写ります。
このキーホルダー、実は序盤の「オペラ襲撃」の際に、「名も無き男」を助けてくれた人物も同じ物を付けています。
つまり、序盤に「逆行」弾で、「名も無き男」を助けてくれたのは、ニールということになります。
また、「アルゴリズム」奪還の際、謎の「逆行」者が、「名も無き男」を庇って、セイターの部下ボルコフの銃弾に倒れています。
そしてその人物にもあのキーホルダーが、、、
このキーホルダーが、まさにニールのその後の運命を示唆しています。
それでも、ニールはその運命から逃れることはできないのです。
それが彼の使命なのだから、、、
ここまで読んでくださり、有難う御座います!
どうしてもややこしい映画だったために、考察も長くなってしまいました、、、
皆さんも感想や考察をぜひ聞かせてくださいね!
予告編はこちら